先日仕事の車を買い換えました。以前から欲しかったものがあるのですが、この機会に買ってしまいました。それは「カーナビ」です。「カーナビ」とはカーネビゲーションのことで、車が今どこにいるかを自動的にテレビ画面に表示してくれる地図だと思ってください。どうして位置が分かるのかというと、地球の上空高く飛んでいる人工衛星からの電波を受信して、その方向から今の位置を教えてくれるのです。
もうひとつ便利な機能があって、行き先を画面に指定してやると、どの道を進めばいいか教えてくれるのです。あとは女性の声で「あと１００ｍ先左に曲がってください」という指示に従って運転するだけで、目的地につけます。さらに最近の機種は途中で道を間違っても、その間違ったところを基準に新にもう一度指示しなおしてくれますから、後戻りしなくても進むことができます。
どこかで聞いた話じゃないですか？自分では分からない「自分の位置」を知っていて、自分に分かる形で教えてくださる。そんな方がいるというお話を聞いたことはありませんか？
私が最初にそのことを感じたのは、しばらく電源を切っていても次に電源を入れたときにもちゃんと今の位置を示してくれていたときです。私が位置や行き先を知りたくて必要としているときはしっかりと私のためにに働いてくれています。でも、到着してしまえば地図画面を見る必要はありません。そういうときでも、衛星は常に空の上にあり、地上に電波を飛ばしつづけています。そして、カーナビは電波を受けているのです。私が必要としなくて、忘れているときでも、ちゃんと電波は届いていて私の知らないところで働いていてくれます。私が気づかないだけなんです。目に見えませんもんね。
では、私が感じた方とは？いつも見守って「願いを聞き届けてくれよ」と呼びづめの阿弥陀様を感じたのです。法座や法事に参加して、お仏壇の前に座ると手を合わせてお念仏します。自分でしているようですが、「お前を救わせておくれ」と私に響く願いに「南無阿弥陀仏」と感謝します。先生方や同行のご縁に触れて、私にわかる形で阿弥陀様を見せられるので、当たり前のようにお念仏します。ところが、仕事や楽しみに心がとらわれているときは、阿弥陀様は休んでいるのでしょうか？いえいえ、そんなことはありません。私が気づかないだけで、いつも私の目の前で、心の中で、「お前を救わせておくれ」と働いてくださっているのです。私は、それを食べ物や友人や、好きな人や憎い人だと思っているだけなのです。そういう物や人や出来事を鏡として、「自分の居所」を教えられているのです。でも、教えられても自分の都合の良いところだけを受け取ろうとしてしまう。どこまでも自分勝手な私です。
さらに私はといえば、あっちに行きたいこっちに行きたいと次々注文をつけます。この道を行きなさいと教えられても、道の脇においしい食べ物屋さんを見つけたらフラフラと脇に行ってしまいます。疲れたといっては休んでいます。でもカーナビはずっと今の場所を示してくれて、どっちに行けばいいか知らせてくれます。
阿弥陀様も同じですね。いつも私に合わせて、ついて来てくださいます。私が忘れてるだけなんです。ふと思い出して「私の阿弥陀様は」と気持ちが響けば、たちどころに「いつもここにいるよ」と教えてくださいます。なにかに感動したり、休まったり、心が動いたときにも「南無阿弥陀仏」と飛び出してきます。「念仏を称えよう」としてだすお念仏もあるのでしょうが、私は忘れているのに勝手に飛び出すお念仏・・・。常に阿弥陀様が働いておられるからこそですよね。
「念仏は唱えるが、唱えていることに気づいたらやめる」とおっしゃった方がいるそうです。また、「何もすることがなければ、してないことに気づいたらお念仏をしなさい」おっしゃる方もおられます。自分で称えるのか、称えさせられるのか・・・どちらにしても、私の思いとは関係なしに働く阿弥陀様がおられます。「唱えていることに気づく」ことも「称えていないことに気づく」ことも、阿弥陀様のお働きが私に届いているから気づかされるのじゃないでしょうか。すると「称えずにおれない」自然と飛び出してくるお念仏に気づきます。
ひとつだけ違うのは、車の旅行はゆっくりでも時間をかければ目的地にはつけますが、生きている私たちには時間が限られているということ。阿弥陀様は、私が生まれる前からずうっとずうっと呼びつづけてくださいますが、私が気づけるのは今このときだけで、明日すらどうなるかわかりません。
2000.3.1