”苦しみ”ということ

 私たちが「御法(おみのり)」のことを気付かされるのは、その多くが今生きている世界で起こる出来事を通してだと思います。そのなかでも、「苦しみ」から逃れられない我が身ということを通して、感じることがあります。インターネットで出会った方とのご縁を通して、こんなことを感じました。

 犯罪という出来事によって、大事な家族を失った方と言葉を交わす機会がありました。その事情は詳しくはお聞きしていませんが、その悲しみと、誰かさえわからない犯人に対する憎しみを語ってくださいました。「はかりしれない苦しみ」というものが私にも伝わってきます。そのご縁を通して、「苦しみ」ということについて考えました。

 まず考えたのは、その方の、あるいは私が関わる方々の苦しみというものをどれだけ私がわかってあげられているだろうかということです。「これ以上ないくらい苦しんでいる」ということはわかります。でも、「どのように苦しんでいる」のか、「私の思うこれ以上ない苦しみ」と同じなんだろうか、と考えたとき、「わかったとは思えない」のです。たとえば、妻がつわりで苦しんでいるときに、「苦しんでいる」とは分かっても、実際に妊娠して同じ苦しみを味わうことはできません。老いや病気で苦しんでいる方と接して、想像することはできても同じ苦しみを感じることはできません。育った環境や境遇で苦しんでいる方がいても、同じ境遇でない私が「その苦しみ、わかるよ」と声をかけても、その方は「わかっていない」と答えるでしょう。でも、「わかってほしい」という願いはわかります。そこを受け止めてあげることはできます。

 でも、そこでとどまっていては同情や哀れみで終わってしまうかもしれません。私はそうは思っていなくても、そのように感じられても仕方ありません。そんなときに、私が仏法によって教えられた「苦しみ」ということをお伝えしたくなります。

 まず、なぜ違う境遇が生まれるのでしょうか。このことを考えると、因果やご縁についてお話しないといけません。とても大事な話ですが、この話だけで多くの言葉を必要とします。私が書きたいと思う話はほとんどそこにつながるのでじっくり書きたいのですが、それは次の機会にさせていただきます。

 では「苦しみ」に話題を戻します。仏法に「四苦八苦」という言葉があります。その詳細は皆さんでお調べください。どうしてそのような苦しみの中で生活しなければならないんでしょうか?その鍵は、私が「本当の苦しみ」を知っているかどうかに関係していると思います。「後生の一大事」という言葉があります。これだけでも、数回分のコラムになるほどのテーマですが、それもいずれお話するとして、「命尽きたときに、今まで自分がしてきたことと同じ事を受けていかなければいけない世界」があると聞かされております。いままで奪ってきた命、踏みつけてきた虫や、食べるために殺した動物(自ら手を下したかどうかは関係ありません)の数と同じだけ殺されつづけるというのです。今まで罵倒してきた言葉の数だけ、自分に浴びせられるというのです。これらは、実際行ったことだけでなく「思ったこと」も行ったと同じようにかえってくるというのです。殺したいと思っただけで殺したも同じだそうです。そう聞かされたとき、「地獄」とは絵空事ではなく、自分が作っている世界なんだと思わずにはおれません。

 私が聞かせていただいているところは、仏法に出会えなければ、何度も何度もこれらの世界(六道)を迷いつづけるということなんです。これが「本当の苦しみ」なんじゃないでしょうか。目の前の苦しみをいくら解決しても、迷いつづける間は新たな苦しみが生まれてきます。火の粉をいくらはらっても、火の元を消さなければ新たな火の粉がふりかかってくるのです。

 自分で気付かない間に他の命を苦しめているのも事実だと思います。そのことに気付く手がかりが「自らの苦しみ」ではないでしょうか。自分では計りしれない苦しみの世界が横たわっているのです。そのことに気付く手がかりが「自らの苦しみ」ではないかと思うわけです。

 苦しみと無縁で生活できれば、それにこしたことはないでしょうね。「本当の苦しみを知るために、今苦しまなければならない」ということではないと思います。「今の苦しみ」には、「なんらかの行いの結果」が現れていると思います。既に起こっている「結果」を変えることはできませんが、苦しみと向かい合わせになったときにその「苦しみ」の中身にとらわれるのではなく、「今私は苦しんでいる」という事実を受け止め、「この苦しみを通して私に届けられているメッセージとは?」を手がかりに、私にかけられている願いに目を向けられたら・・・。苦しむために生きているんじゃない、目の前の「ご縁」を通じて、私(機)と私にかけられている願い(法)を見せてもらうために生きているんだ。私は、仏法に出会ってそのように聞かせていただいています。 南無阿弥陀仏

皆様が感じられたことを、ぜひ教えてください。メールで送っていただいても結構ですし、掲示板で他の仲間たちと共感したり確認しあうのも素敵だと思います。

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1999.11.5

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