釈尊はしばし瞑目され、やがて仰せられました。
「とはいえ、わたしが物語ったことは、
そなたたちの理解力を絶しているであろう。
そのことを示すために、ひとつ、譬えを語ろう」
そしておもむろに阿難に尋ねられました。
「この世で、欲にまみれてのた打ち回っている人と、
少欲知足の人とを比べたなら、どんなふうであろうか」
阿難が答えて申し上げるには、
「強欲者の醜悪なることは、全く話になりませぬ。
彼は過去世に功徳を積まなかったのです。
むさぼり求めて、足ることを知らず、
物惜しみして、悪行を重ねるばかり。
善根功徳を積まなかったために、死して悪趣に墮ち、
やっとのことでまた人間の生を受けても、
またしてもむさぼりの生を繰り返しているのです。
それに対して、少欲知足の人は、
過去世に積んだ善根功徳によって、
生まれつき悪業力が少なく、
今生でますます徳を積んでいくことになるのです」
世尊は仰せられました。
「そのとおりである。けれども、
少欲知足の清らかなる人とは言っても、
転輪聖王に比べるならば、卑しく見劣りがする。
その転輪聖王とて、帝釈天に比べるならば
万億倍も醜悪で、とても見られたものではない。
その帝釈天であっても、他化自在天の王と比べるなら、
百千億倍も見劣りがする。
その他化自在天の王でさえ、
無量寿仏の浄土の菩薩と比べるなら、
その到底およぶところではないことは、
百千万億倍とも計ることができない。
これにて知るべし。
もしここに影現されてある浄土の菩薩の姿を
汝らが＜まさにそのごとくに＞直視するならば、
汝らの目はたちまち潰れてしまい、
否、即座に絶命するであろう」
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2002.11.15